
「ヒト型セラミド5種を合計0.2%配合」。こういう表示を見たとき、多くの人が最初に思うのは「0.2%って、多いの?少ないの?」でしょう。一方で、別の棚には「セラミド3%配合」「セラミド5%」と、ひと桁大きい数字を掲げた製品が並んでいます。
素直に比べれば、0.2%は負けているように見えます。でも、この2つの数字はそもそも比べられません。
私は化粧品の開発研究に携わっています。結論から書くと、「◯%配合」という数字には分母が2種類あり、どちらで書いてもいいことになっている。そして成分表の並び順からも、配合率はほとんど読み取れません。これは企業が隠しているというより、日本の表示ルールがそういう設計になっているためです。
この記事では、国の通知の原文と公開された実態調査から、この数字の読み方を整理します。読み終わる頃には、「0.2%は多いのか」という問い自体の立て方が変わっているはずです。
まず結論:「0.2%」と「3%」は、そもそも比べられない数字

先に答えを置きます。「セラミド◯%配合」の「◯%」は、次の2つのどちらかを指しています。
- 複合原料ベース … セラミドを含む「混ぜ物の原料」を、製品全体の何%入れたか
- 表示成分ベース … セラミドという成分そのものが、製品全体の何%あるか
この2つは、桁がひとつ変わることがあります。実例を挙げます。ある海外ブランドのセラミド美容液は「ceramides 3% blend(セラミド3%ブレンド)」と訴求していますが、公表されている内訳を見ると、セラミドEOPが0.10〜0.15%、セラミドAPが0.20〜0.40%、セラミドNPが0.25〜0.45%、フィトスフィンゴシンが0.25〜0.45%です。個々のセラミドは、いずれも0.5%に届きません。
そして同じブランドの別の製品は「0.2% Bioactive Ceramides」と表記しています。同じブランドの中ですら、尺度が混在しているわけです。
なぜこうなるのか。セラミドは結晶性が高く、単独では化粧品の基剤に非常に溶けにくいという性質があります。そのままでは安定に配合できないので、コレステロールや遊離脂肪酸、溶剤などと組み合わせた混合原料(プレミックス)として供給されるのが普通です。だから「原料を3%入れた」と「セラミドが3%ある」は、まったく別のことになります。
ここを押さえると、冒頭の問いは形を変えます。「0.2%は多いか」ではなく、「その0.2%はどちらの分母で書かれた数字か」が先なのです。そして「5種を合計0.2%」のように成分名と数値を対応させて書いている表示は、表示成分ベースである可能性が高い。つまり、ひと桁大きい数字より情報として誠実である場合すらあります。
成分表の順番から配合率は読めない——「1%以下は順不同」という国のルール

「成分表の前のほうに書いてあれば配合量が多い」。これは半分は正しく、セラミドの話をするときにはほぼ役に立ちません。
厚生労働省の通知「化粧品の全成分表示の表示方法等について」(医薬審発第163号・医薬監麻発第220号、平成13年3月6日)には、こう書かれています。
> 成分名の記載順序は、製品における分量の多い順に記載する。ただし、1%以下の成分及び着色剤については互いに順不同に記載して差し支えない。
1%以下の成分は、順番を入れ替えて書いてもいい。 これが公式のルールです。
セラミドは、前章で見たとおり表示成分ベースでは0.5%に届かないことがほとんどです。つまり完全に「順不同でよい」ゾーンの中にいる。成分表のどこに書いてあっても、そこから配合率を推測することは原理的にできません。
「成分表示の順番からセラミドの配合率の高さを判断できる」という説明を見かけることがありますが、この通知を読む限り、セラミドの領域では成立しない話です。
同じ通知には、成分表の見え方を左右する規定が他にもあります。
- 混合原料(いわゆるプレミックス)については、混合されている成分毎に記載すること … 原料を1つ使っただけで、表示上の成分名は複数に増えます。成分数が多い=中身が豪華、ではありません
- キャリーオーバー成分(配合成分に付随する成分で、効果が発揮される量より少ないもの)は表示の必要はない … 書かれていない成分が入っていることもあります
- 抽出物は、抽出された物質と抽出溶媒又は希釈溶媒を分けて記載する … これも表示上の成分数を増やします
1つめが、まさにセラミドの話です。混合原料で入れたセラミドは、成分表には個別のセラミド名としてバラバラに並ぶ。一方で広告の数字は原料ベースで書ける。 この2つがずれる構造的な理由が、ここにあります。
なお、医薬部外品になると表示のルール自体が変わります。この違いについては医薬部外品と化粧品の違いを「薬用」の意味から解説した記事で整理しています。
表示成分ベースで見れば、「合計0.2%」は小さくない

では、表示成分ベースで見たとき、0.2%はどのくらいの位置なのか。ここには参照できる公開データがあります。
CIR(Cosmetic Ingredient Review) という組織があります。1976年に設立された米国の化粧品成分安全性レビュー機関で、業界団体が資金を出しつつ、皮膚科医や毒性学者からなる専門家パネルが独立して評価し、報告書を全文公開しています。
その報告書には、成分ごとの使用実態の集計が載ります。出所は2系統で、FDAのVCRP(メーカーが自主登録する制度)から集めた製品カテゴリ別の使用件数と、業界団体が会員企業に行ったアンケートで申告された、カテゴリ別の最大配合濃度です。つまりメーカーの自主申告をもとにした実態調査です。
セラミドの最終報告書(2015年4月6日公開)の本文には、こう書かれています。
> 塗布したまま流さないタイプ(leave-on)の皮膚用製品で報告された最大配合濃度の最高値は、スキンケア製品における0.2%(ceramide 2、ceramide 3、ceramide 6 II、ceramide AP、ceramide NP ほか)
「合計0.2%」という数字は、この報告された上限とちょうど同じ水準です。少なくとも表示成分ベースで見る限り、0.2%は決して小さな数字ではありません。
ただし、いくつも留保が必要です。これを「業界の天井」と読むのは行き過ぎです。
- 同じ報告書には、供給業者から ceramide 2 が最大4%、ceramide 5 が最大2% という報告もあると注記されています(詳細は示されていない、とも書かれています)
- 米国市場のデータであり、日本の製品にそのまま当てはまるわけではありません
- メーカーの自主申告ベースで、調査は2013〜2014年のものです
安全性については、同報告書は「この安全性評価に記載された現在の使用実態および濃度において、セラミド類は安全である」と結論しています。高い数字そのものを不安がる必要は、基本的にはありません。
「ヒト型セラミド5種」の5種は、何を再現しようとしているのか

ここで、数字とは別の角度から「5種」を見ておきます。
まず「ヒト型セラミド」は表示名称ではありません。業界や広告で使われる呼び方で、成分表に並ぶのはセラミドNP、セラミドAP、セラミドEOP、セラミドNS、セラミドASといった名前です。
この記号には意味があります。前半のアルファベットが脂肪酸の種類(N=非ヒドロキシ、A=α-ヒドロキシ、EO=エステル化されたω-ヒドロキシ)、後半がスフィンゴイド塩基の種類(P=フィトスフィンゴシン、S=スフィンゴシン、H=6-ヒドロキシスフィンゴシン)を表します。かつては「セラミド1」「セラミド3」のような番号で呼ばれていて、CIRの報告書でも旧名称が [retired](廃止)として整理されています。セラミドNPとセラミド3は同じものです。 成分名から意図を読み解く手順は、世界初のラミニン配合スキンケアジェルを解説した記事でも同じやり方で扱っています。
では、人の肌には何種類あるのか。花王の Masukawa らが前腕内側の角層を質量分析で調べた研究では、342種のセラミド分子種が同定され、それまで知られていた10クラスに加えて新しい1クラスが発見されました。より新しい北海道大学の Kawana らの報告では、ヒト角層から遊離型25クラスとタンパク結合型5クラスが測定され、ヒトではフィトスフィンゴシン型が約35%、6-ヒドロキシスフィンゴシン型が約45%を占めるとされています。
342種に対して、5種。 これは「たった5種」という意味ではありません。主要なクラスを押さえにいっているという設計の話です。ただ、「種類が多いほど肌に近い」という単純な足し算ではないことは、この数字から分かります。5種で角層を再現しているわけではないからです。
セラミドは単独では層を組めない——だから%だけでは読めない

最後に、配合率の数字だけを見ても設計が読めない理由を、もうひとつ書いておきます。
角層の細胞と細胞のすきまを埋めている脂質は、セラミド・コレステロール・遊離脂肪酸という3つの主要成分でできています。量的にはおおむね等モル比で存在するとされ、重量比では約47%がセラミドという値も広く引用されています(この47%という数字については、私は一次情報を特定できていません。おおよその目安として受け取ってください)。
大事なのは割合そのものより、この3つが揃って初めて層状の構造(ラメラ)を組むという点です。セラミドだけを増やしても、層にはなりません。 前の章で触れた「セラミドは結晶性が高く単独では溶けにくい」という性質も、ここに直結しています。だからこそ、コレステロールや脂肪酸と組み合わせた混合原料が使われる。
つまり、「セラミド何%」という数字は、設計全体の一部分しか映していないのです。同じ0.2%でも、支える脂質と一緒に設計されているかどうかで意味が変わります。乾燥が気になる季節の肌に何が起きているかという観点では、石鹸で落ちる日焼け止めの仕組みを処方の裏側から解説した記事でも、成分単体ではなく処方全体で見るという同じ考え方を書いています。
売り場で使える形にまとめると、こうなります。
- 数字を見たら、まず分母を疑う。 「セラミド◯%」が複合原料ベースか表示成分ベースかで、桁が変わります
- 成分名と数値が対応している表示のほうが、情報としては読みやすい。 「5種を合計0.2%」は、そういう書き方です
- 成分表の順番からは、セラミドの配合率は読めない。 1%以下は順不同だからです
- セラミドの名前(NP・AP・EOPなど)を見る。 何を再現しようとした処方なのかが分かります
- コレステロールや脂肪酸が一緒に入っているかを見る。 セラミド単独では層を組めません
まとめ
- 「セラミド◯%配合」には複合原料ベースと表示成分ベースの2つの分母があり、桁が変わることがある。「0.2%」と「3%」は比べられない
- セラミドは結晶性が高く単独では溶けにくいため、混合原料として供給されるのが普通。だから2つの分母が生まれる
- 厚労省通知は「1%以下の成分及び着色剤については互いに順不同に記載して差し支えない」と定めている。成分表の順番から配合率は読めない
- 同通知は混合原料は成分ごとに記載とも定めている。成分数の多さは中身の豪華さではない
- CIRの実態調査では、leave-onスキンケアで報告された最大配合濃度の最高値が0.2%。表示成分ベースなら0.2%は小さくない(ただし4%・2%の供給業者報告もあり、米国・自主申告・2013-14年のデータ)
- ヒト角層のセラミドは342種が同定されている。「5種」は主要クラスを押さえにいく設計であって、角層の再現ではない
「0.2%は多いのか」という問いに一言で答えるなら、「表示成分ベースなら少なくない。ただし他社の3%とは比べられない」です。数字の大小を競う土俵は、実はそもそも成立していません。見るべきは、どの分母で書かれているか、どのセラミドか、そして何と一緒に入っているか。 そこまで読めれば、パッケージの数字に振り回されずに済みます。
参考にした一次情報
- 厚生労働省医薬局 審査管理課長・監視指導麻薬対策課長「化粧品の全成分表示の表示方法等について」医薬審発第163号・医薬監麻発第220号(平成13年3月6日)— 1%以下は順不同、混合原料は成分ごとに記載、キャリーオーバー、抽出物の各規定
- Masukawa Y ほか「Characterization of overall ceramide species in human stratum corneum」J Lipid Res. 2008;49(7):1466-76 — ヒト角層から342種を同定、既知10クラスに加え新規1クラスを発見
- Kawana M, Miyamoto M, Ohno Y, Kihara A「Comparative profiling and comprehensive quantification of stratum corneum ceramides in humans and mice by LC/MS/MS」J Lipid Res. 2020;61(6):884-895 — 遊離型25クラス+タンパク結合型5クラス、フィト型約35%・6-OH型約45%
- Cosmetic Ingredient Review「Safety Assessment of Ceramides as Used in Cosmetics」Final Report(2015年4月6日公開)— leave-onスキンケアの報告最大濃度の最高値0.2%、供給業者報告の4%・2%、安全性の結論
※この記事は化粧品としての範囲で成分表示の読み方を整理したものです。特定の製品の優劣を評価するものではなく、また医薬品的な効果を述べるものでもありません。肌トラブルが続く場合は皮膚科の受診をご検討ください。


