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秋にかゆみ・肌荒れが増えるのはなぜ?現役化粧品開発者が原因を2つに分けて解説

秋の肌荒れ・かゆみの原因を「夏のダメージの後払い」と「秋の環境変化」の2つに分けて示した図解

9月の後半から10月にかけて、急に肌がかゆくなる。夕方になると頬がヒリつく。いつも使っている乳液がなぜか沁みる。毎年この時期に同じことが起きる、という人は少なくないはずです。

検索すると「湿度が下がるから」「夏の紫外線ダメージのせい」「寒暖差」「秋花粉」といった原因が4つも5つも並んでいます。どれも間違ってはいません。ただ、並べ方が良くない。あの4つは、時間軸のまったく違う2種類の話が混ざっています。分けて読むと、自分の肌に今なにが起きているのかが一気に見通せるようになります。

化粧品の処方開発を仕事にしている立場から、秋の肌荒れ・かゆみの原因を2つに整理して、そのうえで「では何を変えるか」まで書きます。

秋の肌トラブルは「時間軸の違う2つ」が重なっている

秋の肌トラブルの原因を「夏の後払い」と「今の環境」の2系統に分けた概念図

秋の肌トラブルの原因は、大きく2系統に分けられます。

  • ①夏の後払い — 7〜8月に受けた紫外線と熱のダメージが、時間差で表面に出てくる。原因はすでに過去にあり、いま進行しているのは「結果」のほう。
  • ②今の環境 — 空気中の水分量が落ち、皮脂の分泌が減り、衣類が変わる。原因はいま現在進行形で、対策すれば当日から効く。

この2つは対処法が違います。①は「もう起きたことなので、回復を邪魔しない」が正解で、②は「環境の変化に合わせて手持ちを組み替える」が正解です。ここを混ぜたまま「秋は保湿を強化しましょう」とだけ言われても、どっちに効かせたいのか分からないまま高い美容液を足すことになります。

順番に見ていきます。

①夏の後払い:バリアが落ちた肌は、弱い紫外線でも炎症が起きやすい

バリア機能が低下した角層ほど、弱い紫外線でも炎症が起きやすいことを示す図解

「秋の紫外線はもう弱いから、日焼け止めはそろそろいいかな」。毎年この時期に必ず聞く話ですが、ここに落とし穴があります。

花王が2019年7月に発表した研究が、この点をきれいに示しています。健康な日本人女性285名(30〜49歳)の上腕内側で、皮膚の色・バリア機能(経表皮水分蒸散量=TEWL)・紫外線感受性(最小紅斑量=MED)を測定したところ、紫外線に対する感受性は、皮膚の色よりもバリア機能の高さと有意に相関していたという結果でした。再現性の確認として、さらに250人以上の測定を2回追加しています。論文は 『Photodermatology, Photoimmunology & Photomedicine』 に掲載されました。

言い換えると、バリアが落ちている肌は、同じ紫外線量でも炎症を起こしやすい。「色白だから焼けやすい」より、「いま肌のコンディションが落ちているから焼けやすい」のほうが効いている、ということです。

そして秋は、まさにバリアが落ちていく時期です。つまり「紫外線が弱くなったぶん、受け手側も弱くなっている」。相殺されるどころか、条件によっては夏より炎症が起きやすい肌の状態で秋の紫外線を浴びることになります。秋こそ日焼け止めをやめない理由はここにあります。使い心地が重い、落とすのが面倒という人は、石鹸で落ちる日焼け止めの仕組みを先に理解しておくと、秋冬用に無理なく切り替えられます。

酸化した皮脂が、セラミドを作る工程そのものを鈍らせる

紫外線や熱で酸化した皮脂がセラミド産生酵素の働きを妨げる流れを示した図解

もう一段深い話をします。夏のダメージは「肌が傷んだ」で終わりではなく、肌が自分で修復する工程のほうを鈍らせることが分かってきています。

富士フイルムが2023年11月に発表した研究(第1回 日本化粧品技術者会 学術大会で報告)では、紫外線や熱で酸化した皮脂=過酸化脂質に注目しています。過酸化脂質である過酸化リノール酸と、その分解物であるアクロレインが、セラミドを作るのに重要な酵素の遺伝子発現量を下げることを確認しました。

  • セラミド産生酵素 SPTLC3:過酸化リノール酸19nMで約20%低下、アクロレイン1ppmで約20%低下
  • アシルセラミド産生酵素 CERS3:過酸化リノール酸19nMで約20%低下、アクロレイン1ppmで約30%低下
  • 角層細胞の構造に関わる INV(インボルクリン)・LOR(ロリクリン)・OCLN(オクルーディン)の発現量も低下

ここは正確に書きます。これはヒト表皮細胞や三次元皮膚モデルを使った実験であって、「夏を越えるとあなたの肌のセラミドが20%減る」という話ではありません。ただ、夏に皮脂がよく出て、それが紫外線と熱で酸化して、肌の上にしばらく居座る——という秋の入り口によくある状況が、セラミドを作る側の工程を鈍らせる筋道を示したという意味で、開発現場では重く受け止められている結果です。

「秋は肌の回復が遅い」という体感には、こういう裏づけがあります。

ターンオーバーは4週間以上。だから8月のツケが9〜10月に届く

では、なぜ夏の真っ最中ではなく、いまになって出てくるのか。答えはタイムラグです。

表皮では、基底層で新しいケラチノサイトが生まれてからはがれ落ちるまで、およそ4週間以上の周期が繰り返されています。角層に到達してからも、およそ2週間かけて表面まで上がってきて、少しずつ自然にはがれ落ちていきます。

つまり、8月のいちばん紫外線が強かった時期にダメージを受けた細胞が、角層の表面に出てきて「バリアの一番外側」として働き始めるのが、ちょうど9月から10月にかけてなのです。夏のダメージが秋に出るのではなく、夏に傷んだものが秋にようやく表面に到達する。この順番で理解しておくと、「いま慌ててダメージケアをしても間に合わない」ことも同時に分かります。

いまできるのは、回復を邪魔しないことと、これ以上ダメージを足さないことの2つだけです。

②今の環境:「湿度は下がっていないのに乾く」のからくり

相対湿度は横ばいでも空気中の水分の絶対量は大きく落ちることを示す対比グラフ

ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。

「天気予報の湿度はまだ70%台だし、乾燥するのは11月からでしょう」。そう思っている人は、見ている数字を間違えています。

気象庁のデータで、2025年の東京を見てみます。

  • 8月:蒸気圧 30.2hPa / 相対湿度 74%
  • 9月:蒸気圧 26.6hPa / 相対湿度 77%
  • 10月:蒸気圧 16.8hPa / 相対湿度 78%
  • 11月:蒸気圧 9.5hPa / 相対湿度 64%

9月から10月にかけて、相対湿度は77%→78%とむしろ横ばいで微増しているのに、蒸気圧は26.6hPaから16.8hPaへ約37%も落ちています(26.6 − 16.8 = 9.8、9.8 ÷ 26.6 ≒ 0.37)。

なぜこんなことになるのか。相対湿度は「その気温の空気が抱えられる最大量に対して、いま何%入っているか」という割合です。気温が下がれば分母も下がるので、水分の絶対量がごっそり減っても、割合としては横ばいに見えてしまいます。

一方、肌から水分が逃げる勢いを決めているのは、肌の表面と周りの空気との水蒸気圧の差のほうです。絶対量が落ちれば差は広がり、蒸散は加速します。相対湿度だけ見ていると、秋の乾燥の入り口をまるまる見落とすことになります。「まだ湿度あるのに乾く」のは気のせいではなく、見ている指標がずれているだけです。

なお、これは平年値ではなく2025年の東京の実測値です。年や地域で数字は変わりますが、「気温が下がる月に絶対量が急落する」という向き自体はどこでも共通です。

秋から冬にかけて、セラミド・NMF・皮脂は同時に減っていく

環境が変われば、角層の中身も変わります。ここは研究がはっきりしています。

同じ被験者25名(女性・下腿)を冬と夏の2回測定した研究(『Journal of Cosmetic Science』 2016年)では、夏に比べて冬は、TEWLも視覚的な乾燥スコアも有意に高く、角層水分量は低いという結果でした。さらに角層を分析すると、総セラミド・個々のセラミド・総脂肪酸・コレステロールがいずれも夏より冬で少なく、天然保湿因子(NMF)の主成分であるPCAも冬のほうが少ない。加えて、炎症の指標であるIL-1ra:IL-1α比は冬のほうが高く、テープで剥がれるタンパク量も冬のほうが多い——つまり角層の結合そのものが緩んでいました。

季節を4つとも追った研究もあります。中国・昆明の健康女性72名(平均22.96歳)を春夏秋冬で追跡した2020年の研究(『Skin Research and Technology』)では、頬の角層水分量・皮脂量は夏にピーク、冬に最低、TEWLは逆に夏に最低、冬にピークという季節変動が確認されました。気候が日本とは違う土地の研究なので数字をそのまま持ってくることはできませんが、「夏がピークで冬が底」という向きは共通しています。

秋はその「ピークと底のあいだ」、つまり下り坂の途中です。保湿成分も、それを覆う皮脂も、同時に減っていく。乾燥するから荒れるというより、守るものが減っていく速度に、スキンケアが追いついていないというのが秋の実態に近いです。

見落とされがちな3つ目:秋花粉と、衣類の摩擦

ここまでの2系統に加えて、秋特有の物理的な要因が2つあります。

ひとつは秋花粉です。環境省の「花粉症環境保健マニュアル」には、「ブタクサやヨモギなどのキク科とカナムグラは夏の終わりから秋にかけて飛散しています」と明記されています。春のスギ・ヒノキに比べて話題にならないだけで、飛んではいます。バリアが落ちた肌は異物が入り込みやすい状態なので、春は平気なのに秋だけ顔がムズムズする、ということは起こり得ます。

もうひとつは衣類です。夏の綿のTシャツから、ニット、ウール、タートルネックへ。首まわりと頬に当たる素材が、この時期に一気に変わります。バリアが落ちているタイミングで摩擦の条件が変わるので、「洗顔もスキンケアも変えていないのに、首と顎だけ荒れる」というパターンがよく起きます。心当たりがあれば、化粧品を疑う前に、肌に触れている布を疑ってみてください。

ただし、花粉によるアレルギー反応も湿疹も、診断と治療は医療の領域です。化粧品ができるのは、バリアの条件を整えて刺激を受けにくい状態を保つところまでで、起きてしまった炎症を治すことはできません。この線引きは守ったほうが、結果的に早く治ります。

開発者としての、秋のスキンケアの切り替え方

秋のスキンケアは新しいものを足すより落とす工程を見直すことを示した図解

処方を設計する側の目線で、優先順位の高いものから3つ書きます。

1. セラミドは「入っているか」ではなく「何が、どの比率で」で見る。 花王が2025年に発表した研究(『Journal of Cosmetic Dermatology』 掲載)では、敏感に傾いた肌は、特定のセラミド量が低いだけでなく、セラミドNPとセラミドNSの比が健常肌より低く、角層の細胞間脂質のパッキング構造が乱れて脂質密度も低い、と報告されています。つまりバリアの弱さは「量」だけの問題ではなく「内訳と並び方」の問題でもある。成分表示で「セラミドNP」「セラミドAP」「セラミドNG」のように種類が書き分けられている製品は、少なくとも設計者がそこを意識している証拠です。ただ「セラミド」とだけ書かれているものより、情報量が多い。こういう成分の設計思想の読み方は、ラミニン配合スキンケアジェルの解説でも同じ角度で書いています。

2. 足すより先に、落とす工程を見直す。 洗浄はスキンケアの中でいちばん角層に影響が大きい工程なのに、いちばん後回しにされます。夏場の皮脂に合わせた洗浄力のままだと、皮脂が減り始める秋には明確に過剰です。美容液を1本足すより、クレンジングと洗顔を一段やさしいものに戻すほうが、効くのも速いし安い。

3. 「薬用」表示の意味を知って選ぶ。 荒れているときに医薬部外品(薬用)を選ぶ判断は理にかなっていますが、それは有効成分が承認されているという意味であって、化粧品より必ず優れているという意味ではありません。この違いは医薬部外品と化粧品の違いで整理しているので、迷ったら先に読んでおくと選び方がぶれません。

やらないほうがいいこと3つ

秋に「良かれと思って」やりがちで、逆効果になりやすいものを挙げます。

  • ピーリングやスクラブで角質を削る。 ごわつきを感じると削りたくなりますが、秋のごわつきは角層の結合が緩んで水分が抜けた結果であることが多く、削ると守るものがさらに減ります。
  • 熱いお湯で洗う。 気温が下がると湯温を上げがちですが、角層の脂質は熱に弱く、洗い流される量が増えます。ぬるま湯で十分です。
  • 日焼け止めをやめる。 先に書いたとおり、バリアが落ちた肌ほど弱い紫外線で炎症が起きやすくなります。秋こそ続けたほうが合理的です。

もうひとつ付け加えるなら、荒れているときに新しい化粧品を試さないこと。刺激の原因が特定できなくなり、切り分けに何週間もかかります。

皮膚科に行ったほうがいい目安

化粧品でできることには明確な限界があります。次のどれかに当てはまるなら、スキンケアを変えて様子を見るのではなく、皮膚科を受診してください。

  • かゆみで夜眠れない、無意識に掻いてしまう
  • 赤みやブツブツが2週間以上引かない、または範囲が広がっている
  • ジュクジュクする、皮がむける、傷になっている
  • 市販の保湿剤を塗ると悪化する

「乾燥だと思っていたら皮脂欠乏性湿疹だった」「秋花粉のアレルギーだった」というケースは珍しくありません。診断がつけば対処はずっと短くて済みます。

まとめ:秋の肌は「足す」より「守りに切り替える」

秋に肌荒れ・かゆみが増える原因を、最後にもう一度2つに分けておきます。

  • ①夏の後払い:紫外線と酸化した皮脂のダメージを受けた細胞が、4週間以上のタイムラグを経ていま表面に出てきている。バリアが落ちているので、弱い紫外線でも炎症が起きやすい。
  • ②今の環境:相対湿度は横ばいに見えても、空気中の水分の絶対量は9月から10月にかけて急落する。同時に角層のセラミド・NMF・皮脂も減っていく。

①はもう起きたことなので、回復を邪魔しない。②はいま進行中なので、手持ちを組み替える。やることは、新しいものを足すことではなく、落とす工程をやさしくして、日焼け止めを続けて、守るものを減らさないことです。

秋は攻めの季節ではありません。冬の底に向けて、守りに切り替える季節だと考えてください。

参考文献・出典