9月のうちは何ともなかったのに、10月に入ったとたん、すねが痒い。顔がつっぱる。
毎年この時期に同じことが起きるのですが、天気予報の湿度を見ると70%台で、真夏とたいして変わりません。「湿度は下がっていないのに、なぜ乾くのか」——これは化粧品の開発現場でも、処方の設計と使用感の評価がズレる原因としてよく話題になるところです。
答えは、私たちがふだん見ている「湿度」が、肌が受け取っている水分量とは別の指標だからです。
この記事では、気象庁の平年値から計算した数字と、日本皮膚科学会の診療の手引きをもとに、秋の肌に何が起きているのかを整理します。そのうえで、化粧品でできること・できないことの線も引いておきます。

相対湿度は3ポイントしか下がらないのに、空気中の水分は30%減る
まず、気象庁が公表している東京の平年値(1991〜2020年の30年平均)を見てみます。
| 月 | 平均気温 | 平均相対湿度 |
|---|---|---|
| 8月 | 26.9℃ | 74% |
| 9月 | 23.3℃ | 75% |
| 10月 | 18.0℃ | 71% |
| 11月 | 12.5℃ | 64% |
| 12月 | 7.7℃ | 56% |
8月が74%、10月が71%。たった3ポイントしか下がっていません。これだけ見れば「秋はそんなに乾燥していない」という結論になります。体感と合いません。
「相対湿度」は気温とセットでしか意味を持たない
からくりは相対湿度という指標にあります。相対湿度は、その気温で空気が抱えられる水分の上限に対して、いま何%入っているかを示す割合です。分母が気温によって変わります。
気温が下がると、空気が抱えられる水分の上限そのものが小さくなります。だから相対湿度が同じでも、実際に空気中にある水分の量はまったく違うのです。
そこで、気温と相対湿度から絶対湿度(空気1m³あたりに何グラムの水蒸気が含まれているか)を計算してみます。
| 月 | 平均気温 | 相対湿度 | 絶対湿度 |
|---|---|---|---|
| 8月 | 26.9℃ | 74% | 19.0 g/m³ |
| 9月 | 23.3℃ | 75% | 15.7 g/m³ |
| 10月 | 18.0℃ | 71% | 10.9 g/m³ |
| 11月 | 12.5℃ | 64% | 7.0 g/m³ |
| 12月 | 7.7℃ | 56% | 4.5 g/m³ |
数字が変わりました。
- 9月から10月にかけて、15.7 → 10.9 g/m³ で約30%減
- 8月から10月で見れば 19.0 → 10.9 g/m³ で約42%減
- 8月から12月では 19.0 → 4.5 g/m³ で約76%減
相対湿度が3ポイントしか動いていないその裏で、空気中の水分の実量は4割以上消えているわけです。「9月は平気だったのに10月に急に来た」という体感は、勘違いでも気のせいでもありません。9月→10月のひと月で、肌のまわりの環境がいちばん大きく変わっているのです。
計算方法: 飽和水蒸気圧を Tetens の式(es = 6.1078 × 10^(7.5t/(t+237.3)) hPa)で求め、絶対湿度 = 217 × (es × 相対湿度/100) ÷ (気温 + 273.15) として算出しました。気温・相対湿度の値は気象庁の東京の平年値です。

肌が乾燥から守られている仕組みは「2階建て」
では、空気が乾くと肌の何が起きるのか。ここは日本皮膚科学会の「皮脂欠乏症診療の手引き 2021」に、きれいな記述があります。
正常な皮膚は,角層細胞間脂質や天然保湿因子による皮膚内の水分保持機能と皮脂(皮表脂質)や汗のエマルジョンによって形成される表皮被覆機能の両者の働きにより,乾燥することから守られている.
重要なのは 「両者の働きにより」 という部分です。肌の防御は2階建てになっています。
| 階 | 機能 | 担っているもの |
|---|---|---|
| 内側 | 水分保持機能(水を抱える) | 角層細胞間脂質、天然保湿因子(NMF) |
| 外側 | 表皮被覆機能(フタをする) | 皮脂と汗が混ざってできた膜 |
「保湿」という言葉でひとくくりにされがちですが、水を抱える仕事と、水を逃がさないフタの仕事は別物です。どちらかが欠けると乾きます。
秋に先に落ちるのは「フタ」のほう
ここが季節の話とつながります。皮脂と汗は、どちらも気温に強く依存します。
気温が下がれば汗はかかなくなりますし、皮脂の分泌量にも季節変動があって、夏が最も多く冬が最も少ないことが知られています。夏は冬の約1.5倍という報告もあります(個人差の大きい目安値です)。
つまり秋は、空気が乾いてくるのと同時に、フタの側の材料が減っていく時期です。外からの負荷が増えるタイミングと、防御が薄くなるタイミングが重なる。これが「季節の変わり目に肌が荒れる」の中身です。
手引きでは、皮膚が乾燥する要因を3つに分けています。
①生理的要因:年齢等による皮膚生理機能の変化 ②環境要因:冬季乾皮症に代表される外気や室内空調による低湿度環境、紫外線療法を含めた紫外線曝露、過度の入浴、脱脂作用の強い洗浄料や擦り洗いなど不適切なスキンケア ③非生理的要因:皮膚疾患及び全身性疾患あるいは抗がん剤の投与及び放射線治療といった医療行為に起因(医原性)
②のなかに、低湿度環境と紫外線曝露が並んで書かれている点に注目してください。あとで触れます。

秋のかゆみは「乾燥→掻く→炎症」の順で起きる
かゆみについては、順序を押さえておく価値があります。手引きの記述はこうです。
重症化すると,強い瘙痒を伴うことが知られており,適切な治療を怠ると皮膚の一部で炎症症状を伴う皮脂欠乏性湿疹を発症する.
搔破の反復により炎症が引き起こされると湿疹化する(皮脂欠乏性湿疹).
流れにすると、こうなります。
- 乾燥が進む
- かゆみが出る
- 掻く
- 掻くことを繰り返して炎症が起きる
- 湿疹になる
つまり かゆみは原因ではなく結果で、しかも途中の段階です。かゆくなってから慌てるのではなく、1の段階で止めるほうが圧倒的に楽、というのがこの順序の含意です。
顔より先に「すね」が痒くなるのには理由がある
もうひとつ、手引きに実務的に役立つ記述があります。
生理的要因による皮脂欠乏症の好発部位は両下肢伸側であるが,背部や上肢などにみられることもある.皮脂分泌や発汗の多い顔面や間擦部における発症頻度は(低い)
下肢伸側=すねの前側が代表的な場所で、顔は皮脂と汗が多いぶん起きにくい、と書かれています。
秋になると「顔はまだ大丈夫だけど、夜に脚が痒い」という順番で来ることが多いのは、この通りの現象です。顔のスキンケアだけ秋仕様にして、体を夏のままにしていると、ちょうどこのズレにはまります。

「夏の紫外線ダメージ」と「季節の変わり目」は分けて考える
秋の肌の話になると、「夏に浴びた紫外線のツケが今出ている」という説明をよく見ます。これは半分正しく、半分は別の話です。
紫外線が「乾燥の要因」に入っているのは事実
前の章で引いた手引きの②環境要因には、低湿度環境と並んで紫外線曝露が明記されていました。紫外線を浴びることが乾燥しやすい状態につながる、というのは公式な位置づけとして書かれているわけです。ここは「夏のツケ」説の正しい側です。
ただし色素沈着は別の時間軸の話
一方、「夏の日焼けが秋にシミとして出てくる」は、乾燥とは別のメカニズムです。
紫外線を浴びた直後の赤み(サンバーン)とは別に、2〜3日後から「遅延黒化」が起こります。紫外線によるダメージへの反応として、メラノサイトが新たにメラニンを作って周囲の細胞に分配する動きで、この色素沈着は数週間から数ヶ月続くことがあります。表皮のターンオーバーは一般に約28日周期と説明されますが、年齢や部位で変わります。
時間差があること自体は説明がつきます。 ただし、どのくらい・どう出るかは個人差が非常に大きく、「夏の紫外線のせいでこうなった」と一対一で断定できるものではありません。開発側の感覚としても、ここは断定を避けたい領域です。
まとめると、秋の肌に起きていることは2本立てです。
| 何 | いつのできごとか | 何が起きているか |
|---|---|---|
| 乾燥・かゆみ | いま(9〜10月の環境変化) | 空気の水分量が減り、皮脂と汗も減る |
| 色素沈着 | 夏に受けたものの時間差 | メラニン生成とターンオーバーの周期 |
対策の打ち手も別物です。前者は保湿と洗い方、後者は紫外線対策の継続。混ぜて考えると、どちらも中途半端になります。
秋になっても日焼け止めをやめない理由はここにあります。使い心地で選びたい方は石鹸で落ちる日焼け止めの仕組みとは?現役開発者が処方の裏側を解説もどうぞ。

化粧品にできること、できないこと
ここは開発する側として、はっきり線を引いておきたいところです。
できること
- 角層の水分保持を助ける。保湿成分を補って、内側の「水を抱える」機能を支える
- 表皮被覆の側を補う。油分でフタの役割を足し、水分が逃げるのを抑える
- 負荷を減らす。脱脂力の強い洗浄料や擦り洗いは、手引きでも乾燥の環境要因として名指しされています。洗い方を変えるだけでも条件は変わります
できないこと
- 起きてしまった炎症(湿疹)を治すこと。これは医薬品と医療の領域です
- シミを消すこと
- 皮膚の構造そのものを作り変えること
手引きには、保湿剤による治療について「対症療法であり、治療の中止・中断あるいは季節変動等の環境要因(中略)により再発する」とも書かれています。医療用の保湿剤ですらそうなのですから、化粧品も同じです。続けている間は条件を整えられるが、やめれば戻る。これが正直なところです。
「薬用」と書いてある化粧品との違いが気になる方は、医薬部外品と化粧品の違いとは?現役開発者が「薬用」の意味と選び方を解説で整理しています。

9月から10月にかけて、実際にやること
ここまでの整理から出る、具体的な行動です。
1. 切り替えの目安は「気温」で判断する
湿度の数字を見ても、前述のとおり秋の変化は読めません。平均気温が20℃を割ったあたり(東京の平年値では10月が18.0℃)が、絶対湿度がはっきり落ちてくる位置です。天気予報で最高気温が20℃台前半に定着してきたら、切り替えの合図と考えるのが実用的です。
2. 顔より先に体を変える
好発部位はすねです。顔のスキンケアを秋仕様にするのと同時か、むしろ先に、入浴後のボディの保湿を始めるほうが理にかなっています。
3. 洗い方を先に見直す
新しいものを足す前に、負荷を引くほうが条件は大きく変わります。湯温を下げる、洗浄料の量を減らす、ナイロンタオルでこするのをやめる。手引きが挙げている「過度の入浴」「脱脂作用の強い洗浄料」「擦り洗い」は、どれも自分でコントロールできる要因です。
4. 塗るタイミングは入浴直後
水分が残っているうちにフタをするほうが、乾いてからより条件がいい。ここは2階建ての構造から素直に導けます。
5. 紫外線対策は別枠で続ける
乾燥対策とは別の話なので、秋になってもやめない。脱毛など肌に刺激の入るケアを秋冬に始める方も多いので、そちらとの兼ね合いも確認しておくといいです(→家庭用脱毛器、秋冬が始めどきと言われる理由を仕組みから検証)。

まとめ
- 相対湿度は8月74%→10月71%で3ポイントしか下がらないが、気温が下がるぶん、絶対湿度は9月→10月だけで約30%減(8月比では約42%減)。体感とのズレはここで説明がつく
- 肌の防御は「水分保持機能」と「表皮被覆機能」の2階建て。秋は気温低下で皮脂と汗が減るため、フタの側が先に落ちる
- かゆみは原因ではなく結果であり途中段階。「乾燥→かゆみ→掻く→炎症→湿疹」という順序なので、乾燥のうちに止める
- 好発部位はすね(下肢伸側)。顔は皮脂と汗が多いぶん起きにくい。顔だけ秋仕様にしても足りない
- 「夏の紫外線ダメージ」と「秋の乾燥」は別の時間軸。打ち手も、紫外線対策と保湿で分けて考える
- 化粧品にできるのは条件を整えること。起きた炎症を治すのは医療の領域
受診の目安
次のような状態なら、化粧品で粘らずに皮膚科で相談してください。
- 掻き壊して赤みやじくじくがある
- 保湿しても状態が変わらない、または悪くなっている
- かゆみで眠れない
手引きでも、保湿剤による治療は対症療法と位置づけられています。炎症が起きてしまった段階では、必要な手当てが変わります。
※ 本記事は化粧品開発の立場から、公開されている気象データと学会資料をもとに一般的な仕組みを整理したものです。診断や治療方針を示すものではありません。症状については医療機関にご相談ください。数値は2026年9月19日時点で公開されているものに基づいています。


